あぐりーんTopics

  • 2026/03/02(月)
  • 農業を志す方々へ ー山口 由美さん

農業は地域に根付くサービス業

 梅の里おごせ 山口農園 山口由美(やまぐち ゆみ)さん

 

 

 

=============================================

埼玉県越生町で結婚就農された山口さん。

山口農園では梅と米を生産しており、2010年に義父から代表を譲り受けました。

梅農園の伝統を守りながら、体験型農園やシェアキッチンの運営など、
多角的な農業経営を実践されています。

「県の指導農業士」として新規就農者の育成にも精力的に活動中。

埼玉県にて農業界で活躍する女性にお話を伺うシリーズ 第五弾!

=============================================

  

Q.就農されたきっかけや経緯について教えてください

梅農家生まれの主人との結婚がきっかけです。以前は幼稚園で先生をしていたのですが、ここ越生町に嫁いで来て、初めて梅農家のことや農業のことを知りました。

主人は公務員で、普段は働きに出ておりましたので、義父義母から作業を教わりながら農園作業のお手伝いをしていました。しかし、しばらくして義母が亡くなり、続いて義父が脳出血で倒れるという困難に見舞われました。公務員である主人が仕事を辞めるわけにもいかず、あるとき急に私が農園を切り盛りすることになったのです。2010年のことでした。

当時は今よりもずっと、「農業は男の世界」という意識が強い時代でした。地域の梅部会の総会に参加しても、私は部会員の一人ではなく、あくまで「山口農園の嫁さん」としか見てもらえませんでした。懇親会ではお酌係をさせられ、「女に何ができるんだ」なんて言葉をかけられ、悔しい想いを何度もしたことを覚えています。

それでも前に進もう!と思い、梅干しの加工場を自前で持つための食品衛生免許を取得したり、体験農園を企画したりと、町内では前例の無かった取り組みにチャレンジしてきました。そのたびに多くの先輩農家から反対されたんですが(笑)。

 

Q.反対されながらも、前進し続けて来れたのは何が原動力だったんですか?

農林水産省が開催したワークショップに初めて行った際に、他の地域の女性農家さんと辛さを共有できたこと、そして、農林水産省の課長から言われた言葉がターニングポイントだったと思います。
「私は本当に町内で浮いてて~」と相談をしたんですが、そのときに言われたのは、『町一番の納税者になれ!出過ぎた杭は打たれない。やりたいことをやってみろ!』という言葉でした。途中で立ち止まることも大事だけど、進むことも大事。やりたいことをやってみればいいじゃないかと言われ、「そっか、そうだよな~」としっくり来たんですよね。やってみてダメだったことは、自分に向いてないことだと思って消していけば、最終的に自分に何が合っているかがわかるよね、と思うようにして、いろいろなことに挑戦してみました。
そして、これまでいろいろやってみてわかったこと。
それは、『人のために何かをする』ということが一番自分に向いているということです。だから今は、ネグレクトの子ども達の支援や子ども食堂、農業体験で子ども達に教えること、お客様に梅を好きになっていただく活動など、梅を育てて販売する以外の活動もいろいろとやっていますが、とてもやりがいを感じていますね。

おかげさまで今では地域の先輩農家の皆様たちにも認めてもらえるようになりました。

 

いろいろなチャレンジを重ねていると、ありがたいことに、メディアで取り上げていただく機会が増えてきたんですが、私はメディア出演時に、一つ自分の中で決めていることがあります。
それは『自分の農園だけをPRしない』ということ。出演依頼があった際には、必ず“越生の梅”を宣伝してもらいたいと伝えています。ここ越生町は昔から続く梅の産地。越生の梅があるからうちの農園があり、これまで続けて来れました。これからもみんなで力を合わせて産地を守っていかなければいけないと思っています。

 

 

Q.様々な取り組みをされている山口さんにとって、農業の面白さってどんなところにあると感じてますか?

農業の本当の喜びは、作物が育つこと以上に「人との繋がり」にあると思っています。

私たちの農園は住宅街の中にあります。後からできたのは住宅の方です。だから先代は「後から引っ越して来た者がなんで文句を言うんだ!」というスタンスだったんですけど(笑)、私は、越生町の宝である農園の景色を後世へと繋いでいきたいという想いを、周りの方にも理解していただけるよう、積極的にコミュニケーションを図ってきました。農作業で出るホコリや騒音でご迷惑をかけるお詫びに、周辺の皆様に新米を配って歩くこともあります。そうしたコミュニケーションの積み重ねが、今では大きな力になっています。例えば、農園でイベントを開催するときには、近所の方々が犬の散歩ついでだから、と言ってチラシをポスティングしてくれるんですよ(笑)!梅凛カフェを開店した際には「由美ちゃんが頑張ったからだね、よかったね」と泣いて喜んでくれるおば様もいらっしゃいました。音が出るような賑やかなイベントを開いても、ありがたいことにご近所の皆様は理解をしてくれており、楽しみに参加してくれます。それくらい信頼関係を築いてこれたんだなと感じています。

農業をすることは、地域全体に支えられていることなんだな~と感じるとともに、農業は「作物を作るだけじゃなくて、人づくり」なんだな~とつくづく感じます。

 

農業をやるって、「縁」だと思うんです。その農地を借りるということは、その土地の人になるということなので、その土地の方たちと仲良くして、助け合う。これから農業を始める方にも、人付き合いは大切にして欲しいですね。

 

 

Q.農業において、女性であることが活きたことは何かありましたか?

私は、農業も「サービス業」だと捉えていて、女性ならではの細かいところに気付く視点は活かされていると思います。

今の時代は必ずしもそうではないかもしれないですが、家庭の健康を守り、食事を作っているのは女性の方が多いと思いますので、自分の農産物をどう調理したら美味しく食べられるか「作るところからお口に入れるところまで」のアドバイスができるのは女性ならではの強みになるのではないでしょうか。

 

あと、美味しいものや素敵な体験を見つけると、すぐに誰かに伝えたくなるのって、意外と女性の特徴なんですよ。この「口コミ」・「コミュニケーション」の力は、自分の商品を宣伝するのに大きな武器になると思いますよ。

農業体験を受け入れる際、女性が真っ先に気にするのは「トイレの清潔さ」や「手を洗う場所」なので、私はそこを徹底して整えています。着替え場所の確保やちょっとした気遣い、こういうことが必要だよね、という気付きも女性の方が多いんじゃないでしょうか。こうした「おもてなし」の積み重ねが、リピーターを生みます。私自身も、グリーンツーリズムを早くからされている先輩農家さんの元へ何度も足を運んで勉強しに行きましたね。この作業の時にはこれはしっかり伝えた方がいい、ということや心に残るおもてなしができるようにご指導をいただきました。山口農園に来てくださる方にも、気持ち・心がいっぱいになってほしいと思っています。

 

 

 

Q.最後に、これから農業を始めていきたいと思っている方へのメッセージをお願いします

実際に私のもとへも、農業を始めたいとご相談をいただきます。「農業をやりたい」という熱意は素晴らしいですが、理想だけでは食べていけないのが現実です。

はじめに、家族・家庭へ理解していただくこと、協力してもらうことは必須だと思ってください。それが整ったら、正しい段階を踏んで就農を目指してください。家庭菜園の延長で農家になれると思っている方が多いですが、それは間違いです。農地を借りるにも、農業者として認められるにも段階があります。農業大学校や専門学校、あるいは私みたいに農家に嫁ぐことも一つの方法だと思いますが、指導農家のもとで、技術だけでなく経営や地域のルールをしっかり学ぶことが大切です。

今の時代、「作れば売れる」時代ではありません。まずは市場をリサーチし、誰に、どこで売るのかという「出口戦略」を立てる必要があります。私の教え子にも、最初は珍しい野菜作りなど自分のこだわりに固執して苦戦した子がいましたが、市場が求めるトウモロコシを生産して初めて経営が軌道に乗りました。趣味ではないので、農業で生活するためにはしっかり稼げる柱を作らないといけないですよね。出口をどう見つけたらいいかわからないという方も多いと思いますが、地域への相談や、先輩農業者の現場へ足を運んで手伝って「どう販売しているのか?どうやっているのか?」を学ぶことをしてみるのが近道です。

加工品を販売するなら、食品衛生の免許取得や保健所の許可、検便などは当たり前の義務です。「自宅のキッチンで作ったから」で済まされる世界ではありません。お金をいただく以上、その責任を負う覚悟が必要ですね。

農業は、気候変動や野生鳥獣・害虫との戦いもあり、決して楽な仕事ではありません。実際に当園でも今、クビアカツヤカミキリの被害が出ていてどう乗り越えていこうかと頭を悩ませています。それでも、自分の想いを込めた作物が誰かを笑顔にし、地域の一部として生きられるこの仕事には、代えがたい魅力があります。

 

本気でチャレンジしたい方は、できないということは理由にしない方が良いです。どうすればできるかを考えて行動を始めてみていただくといいんじゃないかなと思います。

私はストイックなので、自分がやりたいことは口に出して言うようにしています。言ってしまうと引っ込みがつかなくなるのと、不思議なことに周りの方が縁を繋いでくれるんですよ!失敗か成功かは自分が決めることなので、自分が成功だと思えばいいんですよ。

なのでやりたいことは口に出して、ぜひ挑戦してみてほしいです!

 

 

◎埼玉県で私も就農したい!

 そんなあなたへ

 埼玉県では就農支援もありますので、まずは相談から始めませんか?

 https://www.agreen.jp/job/detail.php?job_id=4643

トピックス一覧へ戻る